日本でも多くのサークル活動やライブが行われ人気のゴスペルですが、もともとはアメリカの黒人教会で生まれた宗教曲です。17世紀に奴隷としてアフリカ大陸から連れてこられたアフリカ系アメリカ人たちが抑圧された環境の中で、教会の教えや歌に救いを見出したことから発展したゴスペルの曲は、今では誰もが知っている有名曲がたくさんあります。その曲の背景や歌詞の意味を紹介しましょう。
「アメイジンググレイス」
誰もが知っている有名なゴスペル曲ですが、作詞はジョン・ニュートンというイギリス人です。11歳で学校を飛び出し船乗りになった彼は、奴隷船の船長となり、西アフリカで人々を捕え世界中に売りさばく生活を送っていました。しかしある時、大嵐に遭い船ごと沈没し、九死に一生を得る体験をした彼は、その時を境に神の存在を信じるようになりました。船を下りた彼は39歳でイギリスの小さな教会の牧師となります。
彼は牧師として多くの讃美歌を作っていますが、この「アメイジンググレイス」もその一つです。「アメイジンググレイス、なんと美しい響きだろうか、私のようなものまで救ってくださる、道を踏み外してさまよっていた私を神は救い上げてくださり、今までは見えなかった神の恵みを今は見出すことができる」という歌詞の中には、ニュートンの奴隷貿易をしてきた己の人生に対する悔恨と神への感謝にあふれたメッセージが伝わってきます。作曲は、アイルランドの民謡を掛け合わせたとか、南部アメリカで作られたとか諸説ありますが、わかっていません。
「深い河 Deep River」
分類としては、黒人霊歌というゴスペルの原型のジャンルと言えますが、今でも多くのゴスペルクワイヤーが歌っている有名な曲です。
内容は「深い河を越えてさあ行こう、懐かしい心のふるさとへ」といったものですが、ここで示されている川とはヨルダン川のことであり、ヨルダン川を越えて聖地へ行こうと歌っています。ゴスペルソングがいかに宗教と深く結び付いて生まれたものかということが良く分かります。
しかし、抑圧された中で生まれたこれらの黒人霊歌には、別のメッセージがあると言われています。それは、アメリカに実在する川(ノースカロライナ州のディープリバーやミシシッピ川等諸説あります)を越えて、当時奴隷制の厳しかった南部から比較的緩やかだった北部へ逃げていこう、という隠された意味があるということです。さらに、つらく苦しい生活から逃れて天国の神の元へ行く、という意味があるとも言われています。どちらにしても、過酷な状況の中で希望を求めて歌われていた曲なのです。
ゴスペルの有名曲の背景や歌詞の意味を考えると、ゴスペルを生み出したアフリカ系アメリカ人の壮絶な歴史に直面します。自由と希望を追求したゴスペルソングは、人々に勇気と力を与えてくれます。それが、世界中で支持される理由なのでしょう。