ゴスペルと聞いて1992年の大ヒット映画『天使にラブ・ソングを…』を思い出す方は多いとおもいます。
シンガーで言えば、「ローリング・ストーンの選ぶ歴史上最も偉大な100人のシンガー」において第1位に選ばれている”アレサ・フランクリン”やソウル/R&B界のスター”サムクック”でしょうか。
彼らはゴスペルフィーリングの強い歌唱を持ち味としています。
もともとゴスペルというのは、奴隷としてアメリカ大陸に連れてこられたアフリカ人のものです。
彼らは独自の言語、宗教などを禁止され、その苦しい状況下の中でゴスペル(福音)と出会い、キリスト教への改心を経て神に独自の賛美を捧げるようになりました。
これがゴスペルの歴史の始まりです。
冒頭でも紹介した『天使にラブ・ソングを…』はカトリック教会を舞台としています。
カトリックは”マリア崇拝”をしており、あの映画の歌では聖母マリアについて歌われていますが、実は多くのアフリカ系クリスチャンは”マリア崇拝のない”プロテスタントです。
つまり、『天使にラブ・ソングを…』の映画で歌われているのは、ゴスペル音楽とは本質的に違うものがあります。
しかし、日本ではこの映画の大ヒットの影響でこの映画で歌われている音楽を「ゴスペルである」と解釈する考え方が浸透してしまっているのです。
英語の辞書を引いてみると、Gospel とは福音、および福音書の意味です。
アフリカ人奴隷たちは自分たちの言葉や宗教を奪われ、苦しい状況下の中で福音(ゴスペル)と出会い、ここに、アフリカ特有のリズム、ブルーノートスケールや口承の伝統、ヨーロッパ賛美歌などの音楽的感性が、私的感性が合わさって現在のゴスペルの基礎が生まれています。
1930年から黒人教会で演奏され始めたブラック・ゴスペルと、南部州の白人クリスチャンアーティストが歌ったホワイトゴスペルがありますが、当時は人種差別の観点から、黒人と白人の教会が完全に分かれていたため、その音楽性はかなり異なったものになりました。
今、一般的にはブラック・ゴスペルをゴスペルと指します。
ゴスペルというのは、奴隷として連れてこられたアフリカ人たちの歴史、人種差別の歴史を経て確立された背景があります。
だからこそ、そんな苦しい状況の中、ゴスペルを歌うことでそれを支えとして生きてきた人々の力強さが私たちの心を打ち、人々はゴスペルに魅了されるのでしょう。